前回は婚前契約書,前々回は内縁関係の財産分与について紹介させて頂きました。
婚姻前において,紛争予防の点から何ができるか,そして,婚姻関係にない場合に相手方にどんな請求ができるか,という点からお話しさせて頂きましたが,今回は,婚姻関係の終了,すなわち,離婚についてお話しさせて頂きます。
1 離婚の種類
離婚には,協議離婚,調停離婚,審判離婚,裁判離婚(認諾離婚,判決離婚,和解離婚)があります。
2 協議離婚
(1)協議離婚で決めること
協議離婚は,夫婦が離婚に合意し,離婚出を提出すれば成立し(民法763条),日本における離婚の約9割が協議離婚によるものとされています。
裁判所が関与する場合と違い,時間も費用もほとんどかからないため,お互いの負担を軽く済ませるのであれば,この方法で離婚するのが一番望ましいといえます。
離婚自体は,離婚届を提出するだけで成立しますが,未成年の子供がいる場合,父母のどちらが親権者になるかを決める必要があります。
離婚届には子供の親権者を記載する欄があり,離婚届に親権者が記載されていない場合には離婚届は受理されません(民法765条1項,819条1項)。そして,協議する際,子供がいない場合には①財産分与②慰謝料について,子供がいる場合には,①,②に加え③子供の親権④子供の養育費⑤子供の面談交渉権⑥子供の監護権について協議しておくことが必要です。
もっとも,せっかく条件を決めて離婚したのに,後々「そんな約束をした覚えはない」というようなトラブルが発生する恐れがあります。合意した内容を書面にしておくことをおすすめします。特に,養育費など,長期的に履行されるべき金銭については,経済的事情の変化により支払いが滞る恐れがあります。そのような場合,契約書だけでは法的な執行力がないため,公正証書にしておくことをお勧めします。
(2)公正証書
「公正証書」とは,公証人が公証人法,民法などの法律に則って作成する公文書のことです。
合意書や口約束だけでは強制執行ができませんが,執行認諾文言付きの公正証書を作成しておけば,いざというときに裁判を起こさなくても強制執行することができます。
どのような公正証書を作成するか見当もつかない場合には,法律専門家である弁護士に相談することもできます。弁護士のアドバイスを受けた上で,ご自身の望む内容を正確に反映させた公正証書を作成するのも一つの手段です。
3 調停離婚
調停離婚とは,裁判所に調停の申立てをし,調停委員が間に入って離婚の話し合いをまとめる離婚の方法をいいます。
夫婦での協議では離婚が出来ない場合の申立ては勿論のこと,協議をしていなくても家庭裁判所に離婚調停を申立てることができます。家庭裁判所の調停では離婚そのものはもちろん,親権,養育費,慰謝料,財産分与等も含め話し合いをします。
家庭裁判所の調停にかかる費用は,印紙,郵便代金を併せて2000円程度であり,調停離婚は、日本の離婚の約9%を占めています。
調停は裁判所での手続きとはなりますが,裁判のように白黒をハッキリつける場ではありません。裁判官である審判官と調停委員の2人で構成される調停委員会が担当し,それぞれから結婚のいきさつ,夫婦生活,うまくいかなくなった原因,子供の問題,収入や財産状況,今後の見通しなどの聞き取りを行います。そして,双方にそれぞれの言い分を伝え,誤解を解き,歩み寄れないか,夫婦としてもう一度やり直すことができないかなど,円満な解決を目指して調整します。
実は,調停により,破綻していた夫婦が婚姻生活をやり直すことも多く,この場合には,離婚調停の申し立ては取り下げられることになります。
ちなみに,調停は本人が出席するのが原則ですが,弁護士を代理人として建てることも出来ます。待合室は申立人用と相手方用とで分かれているため,夫婦が顔を合わせることはありません。
夫婦がお互いに離婚やその他の条件等に合意した場合、調停調書というものが作成され,親権や養育費その他財産分与等,夫婦で合意に至った取決めが記載されます。調停調書とは,裁判所が作成する離婚協議書又は公正証書のようなもので,作成された調停調書と離婚届けを市区町村の役場に届け出れば離婚が成立します。
ここで注意が必要なのは,調停委員は夫婦双方の条件や言い分をあくまで中立な立場で取りまとめるので,離婚時にはどのような取り決めをしておけば良いのかという事をアドバイスしてくれるわけではありません。そのため,本人協議離婚で行政書士や弁護士が作成する離婚協議書に比べて,恐ろしく簡易なものになる場合もあります。調停調書は離婚公正証書と同等,又はそれ以上の効力を持つため,作成には十分な注意が必要です。調停離婚をする場合は弁護士に依頼をしたり,ご自身で知識を身に着けて離婚調停に挑むことをお勧めします。
4 審判離婚
調停を行った結果,夫婦間にわずかな意見のずれがあるだけで,離婚は認めた方がよいといった場合もあります。このような場合に,審判離婚が利用されることとなります。
審判がなされた場合,当事者から異議が出されなければ,その審判は確定判決と同じ効力をもつこととなります。一方で,審判が出された後,2週間以内に当事者から異議が申し立てられてしまうと,理由を問わず審判の効力は失われてしまいます(家事事件手続法286条5項)。そのため,実務上審判離婚はあまり利用されていません。したがって,調停の場で当事者の意見がまとまらず、調停が不成立となった場合、裁判を利用して、裁判所に離婚を求めることが多いといえます。
5 まとめ
一口に離婚といっても,状況と段階により,手段や合意すべき内容に違いが生じてきます。離婚後の紛争を避け,円満に過ごすためにも離婚の条件につき弁護士に相談して方針を決めてみてもいいかもしれません。
離婚裁判については,別の記事でご案内させていただきます。