離婚と親権

今回は,離婚の際の親権についてお話しさせて頂きます。

1 親権の内容

親権には,未成年子の独立の社会人としての社会性を身につけさせるために,身体的に監督・保護し,また,精神的発達を図るために配慮をすること(身上監護権及び同義務)と,未成年子が財産を有するときにその財産を管理し,その財産上の法律行為につき,子を代理したり同意を与えたりする権利(財産管理権)があります。

2 親権者の指定

民法819条1項は,「父母が協議上の離婚をするときは,その協議でその一方を親権者と定めなければならない」旨を規定しています。

そのため,離婚をする際は,親権者が定められていなければ,離婚届は受理されません。

当事者間の話し合いで親権者が決まればいいのですが,親権について互いに譲らず,当事者間の話し合いで解決できない場合,家庭裁判所に離婚を求める調停の申立てをすることが考えられます。しかし,調停での協議においても子の親権者を定めることが出来ない場合には,家庭裁判所に協議に代わる審判を請求し,どちらが親権者になるか決めてもらうことになります(民法819条5項)。

3 親権者決定の判断基準

家庭裁判所の審判例などにおいて,父母のいずれが親権者として適格性を有するかを判断する場合の具体的な要因をみると,父母の事情として,父親,母親それぞれの側の監護に対する意欲(子どもに対する愛情の度合い),監護に対する現在および将来の能力(親の年齢,心身の健康状態,時間的余裕,資産・収入などの経済力),生活環境,生活状況(住宅事情,居住地域,学校関係)が判断材料となります。

一方,子の側の事情としては,年齢・性別,兄弟姉妹の関係,心身の発育状況,従来の環境への適応状況,環境の変化への適応性,子の希望などの事情を総合的に検討して判断されると解されています。

以下具体的に見てみましょう。

(1)監護の継続性の基準

これまで実際に監護してきた者を優先させるという考え方です。現在の養育環境で安定している親子関係に変更を与えることは,子の情緒を不安定にし,子の人格形成上好ましくないという理由から,現状を維持するため,原則として実際に子の監護をしている者を親権者とするのです。

そこで,子に対する虐待・遺棄放置など子の福祉上問題となるような特段の事情のない限り,現実に子を養育看護している者を優先させるべきであるとされています(大阪家審昭47,9,7)。

(2)母親優先の基準

子が乳幼児である場合,母親が親権者と指定されることが多いといわれています。

もっとも,最近では,「母性」は必ずしも母親によるものを意味するのではなく,これまで子育てをしてきた者による愛情という意味である解され,乳幼児であっても父親を親権者とする裁判例もあります。

(3)子の事情

子の年齢,子の意思,性別,子の心身の発育状況,兄弟姉妹の関係,環境の変化による影響の度合い,親や親族との情緒的結びつき等の事情が判断材料となります。

例えば,乳幼児の場合,母親は一日中つきっきりで子どもの面倒を見なければならないため,母親が親権者と指定されることが多いです。また,未就学児の場合であっても,一日中面倒を見なければならないことは変わらないので,やはり,母親が親権者としてされることが多いとされます。

一方で,子どもが大きくなるにつれ,一日中面倒を見るという必要がなくなります。また,子ども自身の意思もはっきりしてくるため,子どもの意思やそのほかの事情も加味して判断されます。現に,15歳以上の未成年子について親権者の指定,子の監護に関する処分についての裁判をする場合には,その未成年の子の陳述を聞かなければならないとされています(人事訴訟法32条4項)。

(4)離婚に際しての有責性

たとえば,離婚の原因・責任が夫婦の一方の不倫や浮気にあるとしても,そのような離婚原因自体は親権者の決定には影響しません。なぜなら,両親のうちどちらに親権を持たせるのが子どもの利益に適合するかという問題と離婚原因は別の問題であるからです。

そのため,母親の不倫が離婚の原因になったとしても,子どもが小さい場合には,母親が親権者とされる可能性は十分にあります。裁判例でも,別居後男性と交際している妻を子の親権者と指定した判例があります(東京高判昭54,3,27)。

4 調査方法

人事訴訟法33条では,裁判所が親権者の指定の裁判をするにあたり,事実の調査をすることができる旨を定めています。また,裁判所は相当と認めるときは,合議体の構成員に命じたり,家庭裁判所や簡易裁判所に嘱託して事実の調査をさせることができるとも規定しています(同法33条2項)。

また,裁判所が審問期日を開いて当事者の陳述を聞いて事実の調査をするときには,特別の場合を除いて他の当事者は立ち合うことができるとしています(同法33条4項)。

原則として非公開です(同法33条5項)。

非公開としているのは,未成年の子どもをめぐる家庭内部の事情によっては秘密にしておきたい事項や微妙な立場に置かれた未成年の子どもの審理を配慮したものと考えられます。

5 まとめ

 子に関する判断は,財産的な決定とは異なり将来性を見据えたものであることが必要です。子どもの親権者については,個々の事案の事情に即して子の福祉という観点から総合的に判断される必要があります。

親権者の指定につき,可能な限り当事者が納得して行われるために少しでも不安な要素があれば,弁護士に相談することをお勧めします。