婚前契約書の作成(前半)

昨年末,婚前契約書について記事を書かせて頂いたのですが,昨今婚前契約書の記事についてのお問い合わせ増えています。そこで,婚前契約書について2回に分けて具体的にお話させて頂ければと思います。

1 婚前契約書を作成する意義

 夫婦間で交わした契約は,原則として,いつでもどちらか一方の意思で取り消すことができるため(民法754条),契約の法的拘束力を維持するためには,夫婦となる前に契約を交わしておくことが大切だと以前の記事でお話ししました。婚前契約については,財産分野以外の婚姻契約,例えば,日常家事に関する事項や,実家・親戚との付き合い方,子育ての役割分担,財産等について取り決めをする場合と,財産についてのみの取り決めをする場合が想定されます。

(1)財産分野以外の契約

 日常家事に関する事項や,実家・親戚との付き合い方,子育ての役割分担等について取り決めをする場合に関しては,日本の法律で明文化されていません。そのため,2人で話し合って,お互いに納得すれば,自由に取り決めをすることが出来ます。ただし,強行法規と公序良俗(民法90条)に反する契約は無効です。前回の記事に一例がありますので,併せてご覧ください。

(2)財産についての契約

 前回の記事でも,最後に触れさせて頂きましたが,婚姻の届出前に締結する契約として、「夫婦財産契約」があります(民法755条)。

特別な取り決めをしなかった場合,夫婦の財産は民法760条ないし762条に規定される「法定財産制」に従い,夫婦で築いた財産は原則として「夫婦のもの」とされます。その結果,万が一離婚となった場合には,夫婦で折半することになります。しかし,夫婦財産契約を締結していれば,夫婦間における財産の帰属や、結婚生活から生ずる費用の分担などにつき、法定財産制と異なる内容の夫婦財産契約を自由に締結できます。そして、その内容を登記すれば、第三者にも対抗でき(民法756条)、婚姻の届出をした後は、原則として変更できません(民法758条)。

2 契約書作成までどのくらの期間がかかるのか

  契約書作りに要する期間は,作りたい契約書の種類によって異なります。契約書の条項が少なく,比較的簡素なものであれば,その日その場で完成させることも可能でしょう。しかし,何度も協議を重ねる必要がある事項や,自分たちでは解決できない問題が生じ,弁護士や法律専門家に相談しながら進める場合は,お互いに納得するまで相当の時間がかかります。そこで,少なくとも入籍までに半年ほどは余裕をもって婚前契約書を作成することをお勧めします。

  なお,公正証書にするのであれば,手続きに1~2週間程度,夫婦財産契約書は,3~4日程度必要となります。併せて考慮なさってください。

3 契約書に盛り込めない内容,盛り込んでもおよそ意味をなさない内容

婚前契約は「婚姻関係の継続」が大前提であり,結婚生活をうまくやっていくための2人の約束事です。あくまでも,2人の幸せのために婚前契約を締結するのだということを忘れずに,両者がしっかりと契約内容に合意することが重要です。そして,契約の締結の際には,強行法規,公序良俗に反しない内容,世間一般の常識やルール,社会通念に反しない内容を心がけましょう。前回の記事に記載した内容以外には,以下のような内容についても注意が必要です。

(1)子どもの親権

婚前契約書に,「子どもの親権は○○が持つ」と事前に断言していても,離婚の理由がもし○○の育児放棄や虐待にあった場合や,○○が病身で働けず,経済的な見通しが立たない場合などに○○に子を託すことは子の福祉に反すると判断されます。そのため,必ずしも婚前契約書の親権者が子どもの親権を得られるわけではなく,離婚時にどちらが親権者にふさわしいかで判断されるため,契約書の内容が反映されるとは限りません。

(2)相手の相続に関すること

  仮に夫の親が亡くなっても,夫の妻には相続権はありません。したがって,「夫の親が亡くなった時,夫と妻で2分の1ずつ相続する」という内容を決めても,法的な効力はありません。

(3)第三者の権利を侵害する内容

  「夫の親が死んだら,夫が全額相続する。夫の兄弟には相続させない」等第三者の権利を侵害する内容を定めても,法的な効力はありません。

まとめ

本日は,婚姻契約書の概観についてお話させていただきました。

後半では,契約書に記載すべき具体的な内容についてお伝えさせていただきます。