DV保護命令ー配偶者暴力等に関する保護命令申立てー

これまで,離婚の方法や離婚にまつわるお金についての事柄を中心にお話をさせて頂きました。今回は,婚姻中に配偶者から暴力を受けている場合,離婚までにいかなる策を取り得るかお話しさせて頂こうと思います。

1 DV保護命令

配偶者から暴力を受けている場合,裁判所に対し,DV保護命令を申立てることができます。保護命令は,配偶者からの被害者である申立人への身体への暴力を防ぐため,裁判所が配偶者に対し,申立人に近寄らないよう命じる決定のことです。「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(以下「DV防止法」という。)で規定されており,保護命令に違反した場合には,刑罰(1年以下の懲役又は100万円以下の罰金)が課されます(DV防止法10条,29条)。また,「配偶者」からの暴力のみならず,「生活の本拠を共にする交際」相手からの暴力についても保護命令の対象となります(DV法28条の2)。

 裁判所が出す保護命令は,「接見禁止命令」と「退去命令」の外,「電話禁止命令」があります。「接見禁止命令」は,申立人の身辺への「つきまとい」や,申立人の住居,勤務先,その他通常所在する場所付近での「はいかい(徘徊)」を禁止する裁判所の命令です。有効期間は6か月間で(DV防止法10条1項1号),再度の申立ても可能です。

 「退去命令」は,同居している住居からの退去及びその住居の付近での「はいかい」を禁止する裁判所の命令です。有効期間は2ヶ月で(DV防止法10条1項2号),やむを得ない場合には再度の申立ても可能です。

 なお,接見禁止命令には,子への接近禁止命令,親族等への接近禁止命令がありますが,必要な場面に応じて申立人本人への接近禁止命令の実効性を確保する付随的な制度です。そのため,単独で発令することはできず,申立人に対する接近禁止命令が同時に出る場合か,既に出ている場合のみ発令されます。これは電話禁止命令についても同様です。

2 保護命令の要件

 保護命令が認められるためには,以下の要件をみたすことが必要です(DV防止法10条1項本文)

(1)配偶者から,身体に対する暴力(刑法上の暴行罪,傷害罪にあたるような行為)又  は生命等に対する脅迫(被害者の生命又は身体に対し,害を加える旨を告知してする脅迫)を受けたこと。

(2)配偶者(元配偶者を含む)からの,さらなる身体に対する暴力により,その生命又は身体に重大な危害を受ける恐れの大きいこと

(3)子への接見禁止命令(DV防止法10条2項)を求める場合には,さらに,配偶者が幼子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っている他の事情があることが必要です。

 

3 DV保護命令の申立て

(1)管轄

 ①相手方の住所の所在地を管轄する裁判所,②申立人の住所又は居所を管轄する裁判所,③暴力が行われた地を管轄する地方裁判所のいずれかに申立てが出来ます。

(2)申立書面

ア 保護命令の申立ては書面で行います。申立書その他の記録は,相手方が閲覧・謄写することが出来るため,申立人が避難先や新住所等を秘匿している場合には,従前の住所等を申立人の住所として記載する等の注意が必要です。

イ 保護命令の申立書には,①身体に暴力を受けた状況,②さらなる暴力により生命又は身体に重大な危害を受けるおそれが大きいこと,③子への接見禁止命令を得たい場合は,配偶者が子を連れ戻すと疑うに足りる言動を行っていること,その他の事情,④配偶者暴力相談支援センターや警察に保護を求めていた場合は,その旨及び所定の事項を記載します。

ウ 前記①から②の事情については,暴力を受けた際の状況,つきまといの状況,その際の夫の態度や言葉等をできるだけ具体的に詳しく記載します。直近に暴力を振るわれていなかった場合でも,その理由によっては保護命令を得ることが可能です。例えば,妻が,暴力を振るわれた時の恐怖から,夫に逆らうことが出来ず夫の顔色をうかがいながら暮らしたため,暴力を受けずに済んだこと等の理由です。③の子への接近禁止命令又は親族への接近禁止命令を求める場合には,相談又は宣誓の段階でこれらの命令が必要と考えられる事情についても言及しておく必要があります。

④については,仮に配偶者暴力相談支援センターや警察に事前に相談をしていないときは,公証人役場において配偶者から暴力を受けたことなどについての申立人の供述を記載し,その供述が真実であることを公証人の面前で宣誓して作成した宣誓供述書を保護命令の申立書に添付しなければなりません。前記の機関に相談をしておらず,宣誓供述書の添付もないと,申立てをしても保護命令が発令されないことになります。

 

なお,裁判所のホームページによると,配偶者支援センターは以下の場所になります。ご参考になさって下さい。

東京都女性相談センター(℡5261-3110)

東京ウィメンズプラザ(℡5467-2455)

港区家庭相談センター(℡3578-2436)

板橋区配偶者暴力相談支援センター(℡5860-9510)

中野区配偶者暴力相談支援センター(℡3228-5556)

江東区配偶者暴力相談支援センター(℡3647-9551)

豊島区配偶者暴力相談支援センター(℡6872-5250)

 

(3)提出資料

 申立ての際には,申立ての事情を裏付ける資料を提出します。暴力によりケガをした場合,その診断書又は写真があれば,暴力を振るわれたことの有効な証拠となります。暴力の直接の証拠がない場合でも,PTSD(心的外傷後ストレス障害)を発症した場合の診断書,暴力を受けた際の状況を詳述した陳述書によって,保護命令が認められた例もあります。

 また,子への接見禁止命令を求める場合,接近禁止の対象となる子が15歳以上のときは,証拠書類としてその子の同意書を提出する必要があります。同時に同意書の署名がお子さん本人のものであることが確認できるもの(学校のテストや手紙等)を添付書類として提出することになります。

 さらに,親族等への接近禁止命令を求める場合には証拠書類として,接近禁止の対象者の同意書や,陳述書(対象者である方への接近禁止命令が必要である事情を明らかにする内容のもの)の提出が必要です。その他,添付書類として,同意書の署名押印が,対象者である方ご本人の署名押印であることが確認できるもの(手紙,印鑑証明書,パスポートの署名欄等)や,その他申立人との関係を証明する資料(対象者である方の戸籍謄本,住民票,その他申立人本人との関係を証明する書類)を添付書類として提出する必要があります。

(4)審尋の開始

 申立てが受理されると,「速やかに」審尋が行われます(DV防止法13条)。

 なお,東京地裁民事第9部では,申立て当日に申立人の審尋を行います。そのため,事前に申立予定を決め,期日の調整をしておくことをお勧めします。申立人が配偶者暴力相談支援センター,又は警察に対し保護を求めていた場合には,所定の書面の提出及び,必要があればさらにその内容について説明を求められることになります。

 その後,相手方に申立書や書証の写し等を送付し,1週間から10日程度の間に相手方の審尋を行う運用がなされているようです。

(5)保護命令の言渡し

 保護命令は,相手方が審尋期日に出頭した場合には,その場で言い渡され効力が生じます。相手方が審尋期日に出頭しない場合には,決定書が相手方に送達されることによって効力が生じます。

4 まとめ

 保護命令の申立てを行うには,保護命令の要件をみたした上で,暴力を受けた際の状況,つきまといの状況,その際の夫の態度や言葉等をできるだけ詳しく申立書に記載する必要があります。また,診断書や写真等証拠書類の提出,診断書の作成と時間と手間もかかり,保護命令の申立てをご自身で行う場合には相当な手間と労力がかかります。ご自身での申立てが難しいと感じた場合には,申立て手続きを弁護士に依頼することをお勧めします。